夢想の旅人

どうも、イカです

今回ブログを書くに至った理由は不思議な夢を見てどうしても文字に起こしておきたかったからだ

 

寝入る前は特段不思議な事もなく英語の長文問題に中指を立ててから寝たと記憶している

 

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目を覚ますと、そこはどこまでも広がる草原だった

 

体を起こし立ち上がると膝下くらいにまで伸びた草が優しく足を撫でておりむせ返る程清々しい青臭さが鼻を貫き肺の中を満たしていた

 

風が草を揺らし響き渡る音はあまりにも騒がしく、しかし心地よい静寂が辺りを包んでいた

 

不意に人の気配がする

私は驚いて辺りを見渡した

 

すると彼はどうしてかそこに居た

「やぁ、こんにちは。僕は夢想の旅人。良い風が吹いているね」

 

なんだこの人は

邪魔をされた不快感、怒りよりも先に怖くなった

彼がおどろおどろしい見た目をしていたわけではない

純粋に私が人付き合いを苦手としているからだ

私が急に現れた相手に怖気付きながらも観察をしていると

 

「先にこちらが名乗ったのであれば、それに応じ名乗り返すというのが礼儀だと思うのだけれど?」

と相手が急かしてきた

それに対して焦り

「私は...████(本名)...だ...そこで寝ていて今起きたばかりなんだ」

と自己紹介としては不合格なものを出してしまった

 

すると彼は大笑いし

「知ってるよ。見てたもの。そこで。起きたから挨拶に来たんだよ」

と私の不甲斐ない自己紹介を思い切り馬鹿にしてくれた。不要な起き攻めをするんじゃない

 

彼は波導の勇者アーロンみたいな形の緑の帽子を被り動きやすそうな服、簡単に言えばロビンフッドと聞いて10人のうち5人くらいが思い浮かべそうなステレオタイプロビンフッドの格好をしていた

声はエヴァのカヲルくんを思わせるCV石田彰に近しい爽やかお兄さんボイスだった

 

「改めて自己紹介するよ。僕は夢想の旅人、名前の通り夢を旅する者。どこにでも居てどこにも居ない虚な存在...色んな人の夢に紛れ込んではそれを記録しそれを繰り返しているだけの旅人さ」

 

その時点でその面白そうな設定の人物に警戒心は薄れていた

「夢を旅する?というと、まるでここが夢の中みたいな物言いじゃないか」

 

「みたいな物言い、じゃなくて夢の中なのさ。わかった。それじゃあ良い?ここは真っ白な部屋の中、君も知っている白い部屋の中だ」

そう言って手を叩くとそこは白い部屋の中だった

部屋が切り替わったとかではなく、まるで初めからそこに居て夢を見ていただけなような不思議な感覚

そして部屋の隅にはロッカーがあった

私はそれに覚えがあった

最近やったTRPGのシナリオの舞台、アレは真っ白い部屋の中にロッカーが置いてあるというものだった

頭の中に思い描いていた光景がそっくりそのまま目の前にあった

 

すると彼は口を開く

「ここは君が真っ白い部屋と聞いて真っ先に思い浮かべた場所。現実、空想問わずね。ここが夢の中だと証明するには十分だったかい?」

私はたまらず

「そんなことよりも早く戻してくれないか?私の知ってるここはろくな場所じゃ無いんだ」

と嘆願する

「おや、そうだったのかい?それは申し訳ない事をした。じゃあ元に戻そう」

そう言って彼は思い切り手を叩くと私は元の草原、元の場所にいた

「ここが夢なのはわかったけど、何が目的なんだ」

私は恐怖していた

他人の夢を自在に書き換えることが出来る

夢の中で死ねば目が覚めるというがそれは夢と自覚していない時の話だ

夢と自覚させた上で死ねばどうなるかわかったものではない

恐ろしい力を持つ飄々とした青年に私は怯えを隠して相対することしか出来なかった

 

そんな私の恐怖もよそに彼は飄々とした様子のまま

「何が目的って、先に説明したじゃないか。夢を渡り歩き記すのみだと。場所を変えたのは僕の力じゃなく君の力を僕がきっかけを与えたにすぎないんだ。僕はロッカーの置いてある白い部屋なんて心当たりはないからね」

などと明るく笑いながら答えていた

「さらに言うと僕の姿、僕の声、喋り方なんかも君の想像に帰属するんだ。君が僕の気配を感じてどんな姿だと思ったか。姿を見てどんな声だと思ったか。声を聞いてどんな喋り方だと思ったか。全部君に委ねられているんだ。だから僕は夢を揺蕩うだけ」

「ペルソナなんかで見た認知の世界、みたいな感じか...夢を記してどうするのかと言うのを聞いているんだ」

「特にどうもしないさ。記すのが楽しいからやってるだけ。ただ渡り歩くしか出来ないならついでに記してたまに思い出すように他人の夢を読み返すんだ」

 

私は彼の物言いを信じ切っていたわけではなかったが頷けるような事も多く、何より彼が私に危害を加えるつもりなら私はすでに無事では無いだろうと思い、とりあえずは信用することにした

 

「ところでその記した他人の夢って奴は私が読むことは出来るのか」

 

「出来るよ。読みたいのかい?」

 

「あぁ...見せて欲しい。旅を始めてからは長いのか」

 

「んー、長いとか短いとかの感覚は無いんだよね。一年ほどの夢を4時間ほどで見る人もいれば5分ほどの夢を30日かけて見る人もいるから」

 

「途中で見るのをやめて次の夢に行くことはできないのか」

 

「出来ないんだよね。港についても無い船から飛び降りたところで無意味だろう?最悪僕が消えてしまうだろうからね」

 

「そういうものなのか...」

そうして他人の夢を記した手帳台の本をいくつか開いて読んだ

 

小さな女の子の夢、自分の知る街の空を飛ぶというもので言って仕舞えばありきたりな夢だった

「この子はね、足が不自由なんだ。だから歩くという感覚を知らない。それでも自由に街を見てみたかったんだろうね...」

 

わざとらしくハンカチで涙を拭くような動作をしている

「なぜ夢からそんな情報が得られる?」

 

「実際に会って話をしたからさ。今の君と同じように」

 

やはり嘘泣きだった

 

「夢見させてもらいました的な報告義務でもあんのか」

 

「というわけでもないんだけどね、好きでやってるんだ。映画を観た後に監督に挨拶に行くような気分だね」

 

「この女の子もこの草原に?」

 

「いや、この草原は君だけの場所、君だけの景色だよ。この場所は夢の主人が最も落ち着ける場所を選んでるんだ。無論僕じゃなく君がね」

 

「じゃあどんな場所だったんだ?」

 

「それはプライバシーのこともあるから黙っておくよ。もしそれがSMプレイの部屋だったら君はどう思う?他人に知られたいかい?」

 

「納得」

 

次の夢は社会人になりたてだろうか、社の偉い人をぶん殴って自分が社長になると言った夢だ

誰も出来なかった事を成し遂げみんなに賞賛されている

 

次の夢は男の子の夢、優しい母親と2人で幸せに暮らす夢だ。特に不思議なものはない

「この子は母親に虐待されていてね、幸せが何かっていうのを幼いながらに理解してしまった子なんだ。『目を覚ましたくない。ずっと優しいお母さんと一緒にいさせて』って泣き付かれてね...」

 

「さっきから悲惨な人間の夢しかないんだけどそういう趣味でもあるの?」

 

「そういうわけじゃないんだけどね...もやもやした夢じゃなくはっきりした夢に僕がはっきり存在しようとなるとどうしても精神が不安定な人間の夢にたどり着くんだ」

 

確かに夢をはっきり覚えている時は精神的にかなり良くない傾向だと聞く

「そう言えばどういう立場で夢を記してるのこれ」

 

「僕は夢の主人にとってただの景色の人間として夢に存在している。モブって言えばわかるかな?夢の主人は見ればわかるから、その周りを観察してこれに書いてるってワケ」

 

「私の夢にお前が現れたって事は私も立派な精神病だってか?私は一体どんな夢を見てたんだ?」

 

「君が確実に精神病とは言えない。それにはお医者さんの診察を受けてしっかりと診断書を出してもらわないとね。あと自分の夢は知らない方がいいと思うよ〜?僕は別に見せてもいいけど恥ずかしい思いはしたくないでしょ?」

 

尚更気になる。気になるが覚えてない夢を無理に思い出すのは良くないと思い踏みとどまることにした

 

次の夢は大人の人、30歳くらいだろうか。内容は推しのアニメキャラとエッチなことをする夢だった

 

「お前こういうの書くの恥ずかしくないわけ?何したかも事細かに書いちゃってさ」

 

「えっ何君そういうの気にするタイプなの?ウブだねぇ」

 

聞いた私が間違いのような気がしてきた。こういうものとして割り切る他無いだろう

 

「この人はね、特に辛い過去があるとかじゃ無いけど純粋にめっちゃ疲れてる人」

 

「めっちゃ疲れてる人」

 

「そう、めっちゃ疲れてる人。夢って自分の願いが現れる場所、生々しく言うと欲望を満たせる場所であり人の弱い部分が最も顕著に現れるところでもあるんだ。だから性欲を全開にしてるからってその人が変態みたいに思うのはやめなよ?君だってそういう夢見たことないわけじゃ無いだろ」

 

それを言われてしまうと弱い。そんな夢見たことないぞと証明する術は無いのだ。覚えてないのだから

 

その後も色んな人の夢を読んだ

意思を持つ機械の惑星の夢

輝かしい自分になる夢

理不尽に殺されてしまう夢

魔法産業が発達した世界の夢

それら全て巻末にインタビューが添えられており、夢を覗かれた事を怒るものやカウンセリングを行なったものなど多種多様であった

 

「この本を読みたいなんて言ってきたのは久しぶりでね、たまにいるんだ。君みたいな人」

 

「他人の夢を覗けるのに、興味ないのか?」

 

「普通は興味ないだろうね」

 

「そうか」

 

そんなやりとりを終えるとふと彼は立ち上がり伸びをした後

「夢はいつかは覚めるもの。君も起き上がって君の人生を歩くべきだ。自分にできることは何も無いと君は思っているけれど君が思ってるよりはあるはずだよ。君なんかが思ってるよりも世界はもっと複雑で可能性に満ちている」

 

などと真面目な顔をして言い出した

 

「今更説教か?」

 

「かもね。君はここに来ることができるほど想像力豊かで、好奇心にも溢れている」

 

「そんなんじゃない。私は大切なことから目を逸らしているだけの惨めなバカだよ」

 

「どう認知し、どう見るかで世界が変わるのは夢の中だけの話じゃない。現実でも言えることさ」

 

「そこまで言うならやるだけやってやるさ。やらなかったら死ぬけど」

 

「いや別に死ななくてもいいけど...それじゃあ良い?ここは君の部屋、君のベッドの上、君は夢から覚めて明日を生きるんだ。イヨォーッ!!」

 

「なんで一本締め!?」

 

彼は笑顔で思い切り手を叩き、目が覚めると彼の言う通り朝でベッドの上だった

 

時計を見ると0540、鳥が木々にとまり囀りを辺りに響かせている

 

私は起き上がり思い切り伸びをしてから、気持ちの良い朝だったので

 

二度寝した